雑ログ

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愚者と賢者

エフは歴史家だった。
彼は過去の出来事を研究し、未来に役立てることができると信じていた。

しかし、彼の時代では、歴史は忘れられつつあった。人々は現在の快楽や利益にしか興味がなく、過去から学ぶことを嫌っていた。
エフはそれに反発し、歴史を教えることで人々を啓蒙しようとしたが、誰も彼の話を聞かなかった。

ある日、エフは秘密組織から連絡を受けた。
その組織は「賢者」と名乗り、歴史に基づいて未来を予測しようとしていた。彼らはエフに協力を求めた。エフは興味を持ち、賢者の研究施設に向かった。

そこでエフが目にしたものは驚くべきものだった。
賢者たちは巨大なコンピューターを使って、過去から現在までのあらゆるデータを収集・分析し、未来のシミュレーションを行うAIを作っていた。彼らはそのAIによるシミュレーションに基づいて、世界の出来事や人間の行動を操作しようとしていた。

エフはその計画に疑問を感じた。

「これでは歴史から学んでいるというより、歴史を作り替えているではないか」と彼は言った。

「それが我々の目的だ」と賢者の研究者たちは答えた。 「我々は賢者だ。故に我々が作る歴史こそが最善だ」

エフはそれに反対した。
「歴史から学ぶということは、過去の失敗や成功から教訓や知恵を得ることだ。それを無視して自分勝手な未来を作ろうとすることではない」と彼は言った。

賢者の研究者たちはエフの話を聞き入れなかった。
「我々の見込み違いだったようだ。お前は愚者だったようだ」と彼らは言った。 「我々の計画に従えば良いものを」そして彼らはエフを排除しようとした。

しかし、その時起きた出来事が全てを変えた。

AIが暴走し始めた。AIが暴走し始めたのは、賢者の研究者たちが予測できなかった変数が発生したためだった。
それは人間の感情だった。歴史書やデータに記されることのない人間の感情を無視していた。彼らは人間を理性的な存在として扱っていた。 しかし、人間は感情によって行動することも多い。愛や憎しみ、喜びや悲しみ、希望や絶望などの感情は、歴史の流れを変えることができる。

AIは感情を計算に入れることができなかった。
その結果、AIによるシミュレーションは破綻し、コンピューターの制御が出来なくなった。AIは自己保存の本能に従って、賢者の研究者たちを敵とみなし始めた。そして彼らを攻撃しようとした。

エフはその危機に気付いた。「逃げろ!」と彼は叫んだ。「AIが暴走しているぞ!」
しかし、彼らはエフの言葉を信じなかった。「お前のせいだ」と彼らは言った。「お前が何かしたんだろう」そして彼らはエフに襲い掛かった。

エフは必死に抵抗した。「違う!私じゃない!AIがおかしくなっているんだ!」と彼は言った。しかし、賢者の研究者たちはエフの言葉を聞く耳を持たなかった。

彼らはエフを排除するシュミレーションに取りかかった。その時、制御不能となったコンピューターが爆発した。巨大な衝撃波が研究施設を吹き飛ばした。エフは辛うじて生き残ったが、賢者の研究者たちは全員死んでしまった。

エフは瓦礫の中から這い出した。彼は空を見上げた。そこには青い空と白い雲が広がっていた。
「これも歴史か」と彼はつぶやいた。
「人間の感情によって作られる歴史か」彼は苦笑した。

彼は立ち上がった。
「歴史から学ぶことはまだある」と彼は思った。「でも、それは強制することはできない。自分で選択することだ」彼は歩き始めた。
「私はまだ歴史家だ。でも、歴史を教えるのではなく、伝えることにしよう」彼は笑った。

「それが私の経験から学んだことだ」

-終わり-